いちいち、音楽を考える。

音楽はフィーリングも大事だけど、いちいち考えてみたくなるんです。

伝わらずとも、その中にある「想い」は真実。(Fantôme/宇多田ヒカル)

お帰りなさい!この一語がホントぴったり。

 

Fantôme/宇多田ヒカル 2016年9月28日


俺の彼女
花束を君に
二時間だけのバカンス
人魚
ともだち
真夏の通り雨
荒野の狼
忘却
人生最高の日
桜流し

いやー、帰ってきましたね!実に前作から8年の月日。長かった。

今回、この作品(Fantômeとは、フランス語で幻、という意味)を聴くにあたって、明らかに作風が変わったゾーン(ULTRA BLUE以降。この作品から「内省的」な作風になったと私は思う。)の作品をもう一度、聴き直しました。

で、ものすごく率直な話をすると、私が当初聴いたときに感じた「違和感」は、やはりありました。その「違和感」っていうのは、アルバム全体を包んでいる「疲労感」であったり、「憂鬱感」。当初、「ULTRA BLUE」は「BLUE」ってタイトルにしようかと宇多田氏は思っていたそうなんですが、それじゃ淋しい気がする…ってことでULTRAがついたとのこと。ただ、それでも全体を覆っている「寂しい」感じはあったんですよね。

Ultra Blue

Ultra Blue

  • 宇多田ヒカル
  • J-Pop
  • ¥2100

 

一方、その次の作品である「HEART STATION」は、タイアップ上の関係で「メッセージ」の指向性の変更を余儀なくされたり(Prisoner Of Love)、前作を超えるという意気込みが込められた「Fight The Blues」、仮タイトルが「やけくそ」だった「Celebrate」など、どこか「力が入っていてしんどそう…」という感覚がありましたよね。それでも、サビのキャッチする力はすごいものがありましたけどね。

Heart Station

Heart Station

  • 宇多田ヒカル
  • J-Pop
  • ¥2100

 

で、このあと8年間、宇多田ヒカル名義でのアルバムリリースはなく、「人間活動」と称したスローペースで活動してきて、その集大成がどんなものとして出てくるのか?そこにものすごい興味をそそられましたよね。

…その結果は、この曲に集約されていたと思います。

■伝わらずとも、その中にある「想い」は真実。

 

この曲、ほんと素直に「内面」に秘めたる思いが愛情たっぷりに表現されてますよね。まずは、想いを伝える際に「どう伝えても、なんかしっくりこない」ってこと、あるじゃないですか。そのもどかしさがこのフレーズに現れてますよね。

花束を君 に贈ろう
愛しい人 愛しい人
どんな言葉並べても
真実にはならないから
今日は贈ろう 涙色の花束を君に

(花束を君に/宇多田ヒカル)

で、二番に舞台は移って、活動休止中のこと、だったりするんですかね?この間に宇多田氏は次のように心境を変化させていきます。

毎日の人知れぬ苦労や淋しみも無く
ただ楽しいことばかりだったら
愛なんて知らずに済んだのにな

花束を君に贈ろう
言いたいこと 言いたいこと
きっと山ほどあるけど
神様しか知らないまま
今日は贈ろう 涙色の花束を君に

今度は、言い尽くせぬ思いが溢れてきていますよね。山ほど言いたいことはあるけど、伝えきれない、っていう。酸いも甘いもって言葉だと安っぽく感じるほど、宇多田氏の「含蓄」が感じられます。そしてラストのサビで、彼女はある「結論」を出しました。

世界中が雨の日も
君の笑顔が僕の太陽だったよ
今は伝わらなくても
真実には変わりないさ
抱きしめてよ、たった一度 さよならの前に

花束を君に贈ろう
愛しい人 愛しい人
どんな言葉並べても
君を讃えるには足りないから
今日は贈ろう 涙色の花束を君に

伝えきれない思いも、言葉にし切れない思いも、それでいいんだ。その中にある「想い」は真実なんだから、っていうめちゃくちゃ優しいメッセージ。本当に、キレイな、丁寧なうただなぁ、って思いました。この歌詞はお母さまに宛てたもの、だそうですが…並々ならぬ敬意を感じますよね。

想いが形にならぬことって、ありますけど…この宇多田氏の言葉に勇気づけられる人は本当に多いと思います。想いが伝わる、伝えられるのは決していまではないかもしれないけれど、それでも想うことで、なにかが伝わっていくんじゃないか。その想いは幻なんかではないと私は思います。

ほんま、とても素敵な「想い」をありがとうございました、と宇多田氏にお伝えしたいです。

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花束を君に

花束を君に

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■ひとりで行かねばならぬ道にも、示してくれる人がいる。

コマーシャルより。

 

改めて聴き直してみて、この曲ももしかしたらお母様の死からの着想が大きいかなと感じましたね。再活動へと動き出すまでの過程が情景と共に浮かんでくる楽曲ですね。

黒い波の向こうに朝の気配がする
消えない星が私の胸に輝きだす
悲しい歌もいつか懐かしい歌になる
見えない傷が私の魂彩る

(道/宇多田ヒカル)

キレイですよね、日本語が。そして繊細。しかも「誰が読んでも」ニュアンスの大きなブレがない、と言いますかね。この辺が聡明やなぁと思います。課題を乗り越えていくまでの時間経過も一緒に体感できるかのようです。

そして、驚いた…と言いますか、おおお、正直に来たなぁ…と思ったのが以下のフレーズ。

調子に乗ってた時期もあると思います
人は皆生きてるんじゃなく生かされてる

目に見えるものだけを
信じてはいけないよ
人生の岐路に立つ標識は
在りゃせぬ

再活動までに、この辺りの「荷物」は整理が必要だったんだろうなぁと思います。いわば「過去の客観的な受容」があったわけですしね。ほんで、ホントのホントに大事なところは人が示してくれるわけではないんですよね。

ここまでの想いが前提としてあるから、一見背反しそうなサビが深く響くんですよね。

どんなことをして誰といても
この身はあなたと共にある
一人で歩まねばならぬ道でも
あなたの声が聞こえる
It's a lonely road
You are every song
これは事実

ひとりで行かねばならぬ道にも、示してくれる人がいる、ってこともまた事実、として描かれていますよね。ひとりで行かねばならぬところもある、と理解している人が言うのと、そうでない人が言うのとでは大きく響きが変わりますよね。深い実感と言いますかね。

この曲もまた、ダンサブルかつ軽快なビートと相まって、非常に元気の出るナンバーだと思います。

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道

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■誰かのためじゃない、「自分のための」二時間。

※スポット動画。非常に短いです。

 

このコラボ、以前からやりたかったそうですが、まースゴイですね!絡み合いが本当にアダルトで、禁断のフィーリングがこれでもかと溢れんばかりに出まくっています。宇多田氏も相当大人になったんやなぁ…っていう感慨もありますよね。

それはさておき、この歌詞はいろんな解釈があるそうで。もっともそのどれもが正しいんでしょうけど、私は直球で「日常を生きる母」としての側面として捉えました。

朝昼晩とがんばる 私たちのエスケープ
思い立ったが吉日 今すぐに連れて行って
二時間だけのバカンス 渚の手前でランデブー
足りないくらいでいいんです
楽しみは少しずつ

(中略)

家族の為にがんばる 君を盗んでドライヴ
全ては僕のせいです わがままにつき合って
二時間だけのバカンス いつもいいとこで終わる
欲張りは身を滅ぼす
教えてよ、次はいつ?

(二時間だけのバカンス/宇多田ヒカル feat.椎名林檎)

リアルな話、子供さんが小さいときの主婦の「フリー」にしていい時間って二時間ぐらい(もちろん個人差はあるけど)、って聞いたことがあります。それ以外の時間はいわば「誰か(夫や子供)」に使っている時間、なんだとか。

だからこそ、その「二時間」は本当に大切な「自分のため」に生きる時間。欲をかけば身を滅ぼしてしまうから、その二時間というリミットを健気に守っている、そういう奥ゆかしいエロスのようなものも感じますね。

教えてよ、次はいつ?

…ぐっときますねー。シンプルですが、非常にドキドキする楽曲です。曲調はボサノヴァ調の穏やかな楽曲なのに、ホント不思議。

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二時間だけのバカンス (feat. 椎名林檎)

二時間だけのバカンス (feat. 椎名林檎)

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■「表向き」ドロドロさせない、切ない思いやり。

Oh 友達にはなれないな にはなれないな Oh
Oh 今すぐに触りたくて仕方ないから Oh
Oh 友達にはなれないな にはなれないな Oh
もう君に嫌われたら生きていけないから Oh

恥ずかしい妄想や 見果てぬ夢は
持っていけばいい 墓場に

(ともだち/宇多田ヒカル with 小袋成彬)

中盤にドカっと据えられている正統派R&Bポップス。この楽曲がいわゆる「LGBT」についての楽曲、らしいですが…なんともシンプルですよね。

「伝えてはいけない感情」という一本の軸で、最後には墓場に辿り着く、っていう苦しみを、誰にも分かる言葉(今作を聴いていて一番すごいと思ったのがそこ)で描かれているなと思います。しかも、曲調はホーンセクションが入ったりして非常に明るいのが、「明るく、フツーにともだちとしてふるまおうとしている様」を想い起こさせて、より切ないですね。

ただ、この「表向き」ドロドロさせないところが、思いやりなのか、とも思いますね。それだけ深い愛情の証、だと思いますね。

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ともだち with 小袋成彬

ともだち with 小袋成彬

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■何度聴いても、新しいフィーリングを生み出してくれる作品。

しかし、8年という長いスパンだけに期待と不安が大きかったんですけど、結果的にここまでお話ししたくなる内容だった、ってのが、ホントうれしいですよね。

間違いなく、ずーっと聴き続ける作品になると思います。それぐらいに何度聴いても飽きないし、新しいフィーリングを生み出してくれる、そんな作品だと思います。

 

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<アルバム>

Fantôme

Fantôme

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<楽曲>

道

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花束を君に

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二時間だけのバカンス (feat. 椎名林檎)

二時間だけのバカンス (feat. 椎名林檎)

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ともだち with 小袋成彬

ともだち with 小袋成彬

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