自分と向き合うことを、突き詰めた結果。
Unknown Pleasures/Joy Division 1979年6月15日
Disorder
Day of the Lords
Candidate
Insight
New Dawn Fades
She's Lost Control
Shadowplay
Wilderness
Interzone
I Remember Nothing
ジョイ・ディヴィジョンとの出会いは…大学のサークルの先輩が書いていたCDレビューでしたね。そのときに、悲劇的なストーリーについて触れられていたので気になっていたんですよ。そのストーリーっていうのは、端的に言うと、このアルバムのリリースから1年足らずで、ボーカルのイアン・カーティスがてんかん発作・うつ病などを苦にして自殺、ジョイ・ディヴィジョンとしての活動は終わった、っていう話です。
実は、このアルバムはデビュー作品で、活動期間はわずかに5年。うち、リリースに関わっていたのは2年足らず。(イアンの死後、ラストとなる2ndアルバムが発売された。)そんなアーティストがイングランドから遠く離れたここ日本で強い影響を与えるって、いったいどういう作品なんやろう?ってすごく気になっていたんですよね。
ただ、近くのレンタルショップには置いてなかった(評論家の評価は高かったが、セールスには思ったように結びつかなかったとのこと)んで、まずはYouTubeからチェックしてみようと思って、彼らのライブ映像をチェックしたんですよね。
…そこには、イアンの衝動的などうしようもないほどのエネルギーがつまっていたんです…
■「無力」な自分と、真正面から向き合った結果。
もう、衝撃的でしたよね。(イアンのライブパフォーマンスは、てんかん発作の影響もあると言われている)サイケデリックで恐ろしく、目を背けたくなる側面もあるんだけど、気づいたら何度も何度も見ていたんですよね。と同時に、これほどまでに彼を駆り立てるものって何だったんだろう、ってどうしても気になったんですよね。
実はこの曲、イアンが障がい者向けの求職センターで働いていた時に、彼と同じ病気で苦しんでいた少女が亡くなった(この曲でのSheは彼女を指す)ことにショックを受けて書いた曲だそうで…
And she turned around and took me by the hand and said,
I've lost control again.
And how I'll never know just why or understand,
She said I've lost control again.
And she screamed out kicking on her side and said,
I've lost control again.
And seized up on the floor, I thought she'd die.
She said I've lost control.(She's Lost Control/Joy Division)
てんかんの発作が出て、また自分の力では制御が利かなくなってしまったということを訴える彼女に対して、何もできない、どうしてやることもできない自分(イアン本人)。その怒りが、淡々とした「外面」を象る楽曲の中に、うごめくように渦巻いている、ものすごく「リアリティ」がある楽曲、パフォーマンスだと思います。
現在はニュー・オーダーとして活動している残りのメンバーは、「イアンは気を遣う人間だった」ということを話していたそうですが、その言葉通りに、「どうすることもできない自分」と真正面から向き合おうとした結果が、この突き動かすエネルギーとして伝わってくるんだろうな、と思います。
■「詰める」ってことすらも、エネルギーを削ぐのかも。
シンプルな言葉で表すと、「暗い」ってなるんでしょうけど…それだけで片づけてはいけない「静かなる圧力」がある楽曲ですよね。隙間だらけの音の間に、念がこもっている、といいますかね。
To the center of the city where all roads meet, waiting for you,
To the depths of the ocean where all hopes sank, searching for you,
I was moving through the silence without motion, waiting for you,
In a room with a window in the corner I found truth.(Shadowplay/Joy Division)
この歌詞は、行き着く先は結局のところ「死」っていう、身もふたもないことを思って書いたと思われるモノなんですが…なんというか、肚が決まっているかのような圧を感じるんですよね。覚悟は決まってるから、もう後は待つだけ、という終末感がものすごく漂っているのを感じます。
後には退かない、ってのは楽曲面からも感じますよね。技術だけで言えば、全員、どう見たってもっともっと詰めるべきところはたくさんあるはず。でも、いわば「ありのまま」をぶちまけていった、ってところに、生々しいエネルギーが宿っているなと思うんですよね。ひょっとしたら、そういう「詰める」とかいうこと自体も、もしかしたらエネルギーを削ぐ行為なんじゃないか、とか、そういうことまで考える楽曲だなぁと思います。
■「自分のいま」に、問いかける作品。
正直、このアルバムは万人にはおススメしません。
全編通して救いがあるわけでもなければ、決して気持ちよくなれる作品でもないです。ですが、それでも「自分のいま」に、腹をくくれているのか。そのことを確かめたり、彼らの放ついわば「必死」とも言えるエネルギーに触れることで、襟を正すことができる。そんな一枚だと、私は思います。
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