暗黒期を、自分で抜け出すまでの過程。
ヘッドフォンチルドレン/THE BACK HORN 2005年3月16日
扉
運命複雑骨折
コバルトブルー
墓石フィーバー
夢の花
旅人
パッパラ
上海狂騒曲
ヘッドフォンチルドレン
キズナソング
奇跡
今回、THE BACK HORNについて記事にするにあたって、ファーストかこの作品か、どっちを先にお話しするか迷って、こっちの作品を選びました。昨日久しぶりに聴いたときに、あらためてこのアルバムの名盤度合いを実感したからなんですよ。
このアルバムは、未来(今も)に絶望し、運命を呪い続けてきた人間が、生きることや世間に対して心を開くまでのドキュメントが、生々しく綴られているアルバムです。私は個人的に、このころが初期の荒々しさと芽生え始めた(心を開き始めた、とも言うか…)ポップネスと最も融合している作品だと思います。
のっけから生々しさ全開なので、腹をくくって聴いてみてほしいと思います。
■「クソ」に翻弄される自分自身。
クソで涙してクソで共感を集め
クソを賛美してクソに人生をかける売れればいいけれど売れなきゃただのクソ
気が付けばだれもが立派な商売人
嗚呼…(運命複雑骨折/THE BACK HORN)
まったくキレイではないけれど、リアリティがすごいですよね。ギターの菅波栄純氏が作詞してるんですが、ギターのメインリフもメロディ込みで歪みっぱなし、まさに骨折してるのかぐらいの屈折度合いです。
この歌詞、特に現代ではさらに顕著になってきたっていう気がしますよね。あつらえられた感動なんて、クソでしかないけれど、その「クソ」を作らないと人生が危うい…でも、もし、その「クソ」を作った結果売れなかったら…?ここまで自身の恐怖を切り取った作品もなっかなかないんじゃないかと思うんですよね。
ただ、ここじゃ止まらないのが菅波氏。
夢見る凡人
迷惑な奴でごめんなさい
ぶっちゃけ本当は
悩んでるふりがしたいだけ歌いたい事もなく
歌うべき事も何も無い
それでも歌いたい
歌わなきゃ気が狂いそうさ
これ、思ってても言えないですよね。恥ずかしいことだと思いますし。
だけど、この正直さこそが、バックホーンの高いリアリティを支える根幹だと思いますね。歌うべきだから歌うんじゃなくて、それでもやりたいからやる。暗黒が渦巻きながらも必死にもがく姿がカッコいい。そんな一曲です。
■「生きるしかない」という覚悟がカッコいい。
※二曲目が当該楽曲です。
作り手の恐怖を振り切るような、疾走感が溢れまくりの代表曲。
この曲のギターリフはよう練習しましたね。ただただ、カッコイイです。とにかく「生きるしかない」っていう覚悟がビシビシと言葉からも伝わってきますね。
変わらないこの世界 くだらねえこの世界
そんな事誰だって
子供だって知ってるさだけど俺達泣く為だけに
産まれたわけじゃなかったはずさ
ただひたすらに生きた証を刻むよ 今(コバルトブルー/THE BACK HORN)
世界がどうだとか、関係なく、ただひたすらに自分を生きる。今。
エッジの立ちまくったシンプルでパンキッシュなビートと共に、爆発的なエネルギーで決意表明がなされています。なんせ、カッコイイ以外になかなか表現が浮かばないですね。それぐらいシンプルに響いてくる、まさにロック、だと思いますね。
■「こんなはずじゃなかった」と、閉じこもり期へ…
ところが、ここでの決意表明は砕かれ、自堕落なゾーンへと転落していくんですよね。
こんなはずじゃなかったと
回るミラーボール見つめて
呟けば踊りだす
ゾンビの群れ(中略)
俺はきっとオワッテル
今日もダンスホールで独り
飲んだくれ
飛び回る天使の群れ(パッパラ/THE BACK HORN)
自分自身が決意して、思ったようには世界は動かず、もうヤケクソだ!っていうのがタイトルにも、山田将司氏のボーカルスタイルにもうまく表現されてますよね。
ここから「ヘッドフォンチルドレン」への流れまでは、思い切り自分自身の殻に閉じこもるゾーンへとどっぷり沈んでいきます。ヘッドフォンチルドレンでも、「ヘッドフォンの向こう側に救いを求めても…」というニュアンスの話をしていますが、このシャットダウンの過程を描いているってのも、生々しいなと思いますね。
■「クソ」の象徴をきっかけに、素晴らしい世界が広がっていることに気づく。
しかし、最後の最後で「脱出」の糸口をつかむんですよね。
ありふれた小さなキズナでいい
そっと歩みを合わせてゆく僕ら
街中にあふれるラブソングが
少し愛しく思えたのなら素晴らしい世界(キズナソング/THE BACK HORN)
街中にあふれる、それこそ「クソ」の象徴だったラブソングを、それも愛しく思えたときに素晴らしい世界が広がっている、と気づいたわけですよね。(この「素晴らしい世界」ってのも、「くだらねえこの世界」とは対照的。)その素晴らしい世界に気づいた瞬間に、未来は開いていけるんだということに「奇跡」的に気づくわけですね。
僕らみんなカギをなくした迷子さ
答えなき答えを探して彷徨う
素直のままに泳いでゆけ
この日々を感じながら輝く未来はこの手で開いてゆける
きらめく世界であふれ出す命が奏でるストーリー
限りない躍動が繰り返してゆく奇跡(奇跡/THE BACK HORN)
このラスト2曲は、ポップな仕上がりになっていて、トンネルを抜けて光までたどり着いたんだ、っていう実感にあふれる仕上がりです。なんというか、読了感のいい小説のような感じです。
自分の思った通りに、やっていけばいいんだというところまで気づけた、そんな「成長の過程」を味わえますね。
■自分自身をえぐり倒した、奇跡の作品。
このように、暗黒へと沈んで自暴自棄になってから、自分自身で這い上がってくるまでの過程が克明に描かれた、自分自身をえぐり倒した「奇跡」の作品だと思います。
落ち込んでも、それでも這い上がれる。
そんなことをキレイゴトじゃなく実感できる。そんな一枚だと思います。
★この記事で紹介した楽曲はこちら。
<アルバム>
<楽曲>