「ひとひねり」加えるセンスが光る一枚。
猛烈リトミック/赤い公園 2014年9月26日
NOW ON AIR
絶対的な関係
108
いちご
誰かが言ってた
私
ドライフラワー
TOKYO HARBOR
ひつじ屋さん
サイダー
楽しい
牢屋
お留守番
風が知ってる
木
赤い公園の存在をハッキリとした形で認知したのは、SMAPの「Joy!!」の楽曲提供から。彼らの楽曲は常にいいので「誰が作っているんやろ?」ってことに注目していたんですよね。しかし、当時はまだまだ無名(というか、赤い公園は今も有名とまでは言い難い部分がある)のアーティストに国民的アイドルの楽曲製作を依頼するってのも凄い話ですよね。
それはさておき、赤い公園の2ndアルバム「猛烈リトミック」を聴けば、なんでそういう依頼が来たのか、っていう謎を解くきっかけになるんじゃないかと思います。なんせ、アレンジ力がものすごいです。ほぼ同じことしてないやろ、ぐらいの多彩さがありますし、ソングライター・津野米咲氏(Gt.)の紡ぐ「ダイレクトさと暗喩のミックス」が絶妙な歌詞も素晴らしいと思います。
今回はそんなアルバムから、おススメの3曲についてお話ししていきたいと思います。
■「メッセージのリーチ力を上げる」作詞センス。(NOW ON AIR)
冒頭から爆発するポップネス。圧力の高いサウンドでグッと耳を持って行ってくれます。まさに、オープニングナンバーらしい、オープニングナンバーです。PVと本人たちの佇まいのガーリーさ加減で「アイドル…?」ってな感じで敬遠する方もいるかも知れないですが、まぁ聴いてみてください。本当に完成度抜群です。
その完成度の高いサウンドには、まさに「女子」のフィーリングがつづられています。
全文を読んで初めて成立するストーリーなんで歌詞のリンクを貼りましたが、こういう「女子」のフィーリングって、ダイレクトすぎると私みたいな男は聴きにくいなぁ…って思ったりするんです。
だけど、歌詞を読んで見える情景は、シンプルに「ラジオ(音楽)を聴いている女の子」って形で浮かんでくるので、内面の印象(恋愛の黒い感情など)が和らいで、外面に見える「ちょっと浮かない顔した女の子」って情景の方が色濃く見えてくるんですよね。だから、「何聴いてるんやろ?」ってなライトな感じで、むしろ「気になる」存在へと昇華できていると思います。
この「メッセージのリーチ力を上げる」作詞センス、見事だと思います。
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■「逡巡」の刹那性を、文字通り「一瞬」で表した楽曲。(絶対的な関係)
こちらはドラマ主題歌のタイアップ(フジテレビ土曜ドラマ「ロストデイズ」)もついた楽曲…なんですが、タイアップっぽさ、ゼロです。
なんせ、先ほどの「NOW ON AIR」と違い、分かりやすい構成ではなく、津野氏のいわば「活動ルーツ」とも言えるシューゲイザー的な歪みまくりの爆音+Aマイナースケールをほぼフルに使ったクラシカルなフレージングでどこか「なつかしさ」を呼び起こし、混沌としたままわずか1分40秒ほどで駆け抜ける…っていう、目まぐるしい楽曲です。
一方、歌詞は愛と捉えても友情と捉えても通用するような、「人を信じることへの逡巡」の過程がつづられています。
外に見えている部分が全てじゃなくて、その「腹」では一体、何を思っているかなんてわからないですよね。だけども、その「中」の部分へとたどり着きたいって思いはありますよね。そうすれば「特別」たり得ますしね。
その感情のせわしなさと相まって、この1分40秒という楽曲の短さも納得ですね。こういう感情が起こっているのって、あくまで一瞬ですしね。そんなリアリティも表現されている楽曲だと思います。
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■人間なんだし、108つの煩悩があるぐらいで、ちょうどいい。(108)
※こちらの映像の3曲目が当該楽曲です。
こちらは軽快なギターサウンドが気持ちいい、アヴァンポップ調のナンバー。なんせ、まったく違うアプローチで手を変え品を変え…っていうことができているところがすばらしいと思いますね。このアルバム全体に言えることではありますが、曲調が全部違うと言ってもいいぐらい、作り分けができています。
それはさておき、この曲は特に歌詞が深い!
「人助けをしたなら助けられたのは己と思え」
「災いにあったならありがたい経験をしたと頷け」人間なのにさ
そんなに悟ってどうするんだい
ひとりで悟ってどこ行くんだい
淋しい気持ちを思い出してよ
不謹慎なジョークを思い出してよ
恋煩いを忘れないでよ(108/赤い公園)
今回取り上げている3曲、全部ラブソングなんですけど、切り口が全部変化していますよね。パーソナル止まりの「ブログかよ!」みたいな歌詞じゃない分、読んでから「イメージ」するまでの間があるからハッと気づいたり、グッと心を掴まれたりする時間が生まれるんですよね。ただの共感止まりではなく、ね。
この歌詞は、「完成されすぎた相手」への寂しさが滲み出てますよね。何をしたって怒らないし、心を波立たせることはなくもちろん立派なんだと思うけれど、どこか「人間味が薄くて」寂しい、っていうね。この流れの中で最もグッと来たのが以下の歌詞。
誰かの事を傷つけてよ
傷つけないから、優しいわけじゃないんですよね。時として、傷つけないこと=無関心にも繋がっていくことがあるわけで。そういう意味では、傷つけてしまうことも、愛があることのひとつの証左。もっというと、人間なんだし、108つの煩悩があるぐらいで、ちょうどいいのかも。そんなことさえ思わせるような楽曲です。
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■「ひとひねり」加えるセンスが光る一枚。
今回はたまたま冒頭の3曲をご紹介しましたが、どの楽曲もアプローチが違っているところが素晴らしいと思います。おそらく、好きな曲アンケートとか取ったらまぁまぁ票が割れるんじゃないか、と思うぐらい、多彩な楽曲群です。15曲という多めのボリュームではありますが、飽きずに聴けると思います。
そして、この多彩さに加え、メッセージの伝わり方を一面的にせず「ひとひねり」加えるセンスこそが、津野氏が作る楽曲が「求められる」一番の理由なんじゃないかと思いますね。
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