「押し殺しつつの怒り」は、「効く」。
Hypnotize/System Of A Down 2005年11月22日
Attack
Dreaming
Kill Rock 'n Roll
Hypnotize
Stealing Society
Tentative
U-Fig
Holy Mountains
Vicinity Of Obscenity
She's Like Heroin
Lonely Day
Soldier Side
シスオブを初めて聴いたのは、まだ洋楽にとんと疎かった大学入学したてのころのこと。軽音サークルに入って初めてバンドを組んだドラムの実家におじゃまさせてもらったとき、です。ちなみに、その「おじゃま」した理由は、大学のテスト前…「お茶」に関する講義のテスト前シェアやらをするためだったかと。どうでもいいけども。
その時に「コレ、サイコー」ってなニュアンスで興奮気味に勧められたのが2005年に発表された2枚のアルバム「Hypnotize」と「Mezmerize」。(Mezmerizeについても、気が向いたらお話ししようと思っています)一聴した瞬間に、カッコイイ!と思ったと同時に、聴いたことない感じ、って思ったんですよね。もうお茶のことなんて、完全に忘れてましたね(ちなみに、そのテストは受ければ通る、って類だったらしいですw)。
もちろん、聴いたことない、ってフィーリングを受けたのは「音楽的無知」はあるけれど、なんせボーカルのサージ・タンキアン氏の幅の広いボーカルスタイルに加えて「クセ」満点のメロディー…それらを繋ぐ「曲展開の奇天烈さ」にあると思うんです。ブラストビートのような性急なビートが続いたかと思えば、急にサビでノーマルなビートに落ち着いたり…と、なにせ、聴いていて気分の落ち着きは一切ない、と言っても過言ではないと思います。
ただ、その分、気分をガッ!と上げてスイッチを入れたいときには非常にいい一枚だと思います。それでは、ご紹介していきます。
■躊躇の一切ない、プロパガンダへの「攻撃」。
冒頭から、まさに「攻撃」と言わんばかりの攻撃的なギターフレーズ、ドラムのビートでエンジン全開の楽曲です。殺気立ったフィーリングはこれでもかと溢れているんで、聴く人によっては「怖い」って感じることもあるかと思います。
ただ、怖いって感じるのは音だけではなくてですね…歌詞に込められたメッセージはもっともっと爆発的な怒りのエネルギーに満ち満ちています。
The cold insincerity of steel machines
Have consumed our euphoria
Transforming us into muted dreams
Dreaming of the day thatWe attack
Attack, attack your fetal servitude
We attack
Attack, attack, attack with pesticide
We attack
All the years of propaganda
We shall attack!(Attack/System Of A Down)
彼らの歌詞って、かなりの社会的・政治的なメッセージを持っているんですよね。
※メンバー全員が、アルメニア人コミュニティ出身。単純に言うと、国内ではマイノリティな立場。
自分たちの幸せを許されず、いわば「喧伝的」にマジョリティパワーで「お仕着せられる」幸せ(というか正義か)に対する怒りの「攻撃」。そこに全精力が注がれています。躊躇がまったくないんで、ドストレートに飛び込んできます。歌詞を調べずとも、「あっ、これは怒ってるな…」ってフィーリングを感じることができます。
体質的に受け付けない人もいるかと思いますけど、一度耳を傾けてみてほしいです。この高いエネルギーが、身体の中に眠っている「鬱憤」を引きずりだしてくれること請け合いです。
■「押し殺しつつの怒り」は、「効く」。
こちらはアルバムのタイトル曲。先ほどの「Attack」のような分かりやすい攻撃的なサウンドではなく、むしろクリーン寄りの仕上がりになっています。ギターのアルペジオの美しくも不気味なフレーズがかなり耳残りしますね。
ただ、楽曲の変則的な要素が少ない分サージ氏・ダロン・マラキアン氏(Gt/Vo)の高低のメリハリがついたツインボーカルスタイルから発せられるメッセージ性がグッと浮き出てくるんですよね。
Why don't you ask the kids at Tiananmen square?
Was Fashion the reason why they were there?They disguise it, Hypnotize it
Television made you buy it(Hypnotize/System Of A Down)
天安門事件の「弾圧」になぞらえて、事実は「権力者」の都合のいいように作られていく、ってこと(これを「催眠」と称している)を、こちらの楽曲では「押し殺しつつ」の怒りとして表現されています。
で、この「押し殺しつつの怒り」って、すごく効きますよね。そういう人の方が実は怖いし、何より「話を聴いてみよう」と思うというか。
私自身もこのメッセージについて、それこそ「怒ってでも」伝える価値のあるものであると思います。強者の現実がすべてだ、と思う発想だと、本質的なモノを見落としていくと思いますし。だからこそ「わめき散らす」のではなく、訴えかけるように伝えられているこの楽曲は表現的に「勝っている」と思います。
■「いい意味でバカ」な、「抜きどころ」。
この曲は…メッセージ性がありそうで、そうでもない曲です(笑)。単純な話、「抜きどころ」って感じの楽曲です。
無限にひたすら繰り返される「Banana banana banana terracotta banana terracotta terracotta pie!」ってフレーズがとにかく耳残りがすごいです。(※意味は各自調べてくださいw)。楽曲構成も奇天烈で、ハードサウンドからいきなり甘いファンクサウンドへと転化したり、忙しくも楽しい曲です。
で、私はこの曲、とってもこのアルバムの中で大事な役割を担っていると思っていて。やっぱり、メッセ―ジがハードな分、どうしても聴いていて疲れてしまう側面ってあるんですよ。説教をずっと聞いてたら疲れるのと同じ感じで。だけど、こういう「薄い」「いい意味でバカ」な楽曲があることによって、リラックスできるし、心理的な距離も縮まるんですよね。
こういう「遊び心」も大事に出来ているところがマイノリティメッセージを放ついわば「受けがいいタイプではない」けれど「売れた」重要なポイントだと私は思います。
■唯一無二の世界観に、触れてみてほしい。
政治的なメッセージや社会的なメッセージのハードさはあれども、そもそも音楽が持っている「根源的に命を目覚めさせるパワー」が備わった作品って意味では、それこそ「ジャンル的にムリ」って話でなければ、どなたにもおススメできる作品だと思います。
最悪、メッセージ部分が好きじゃなかったとしても、単純にクセになるメロディ、楽曲のカッコよさを味わうだけでも十分に楽しめる作品です。ぜひ一度、この唯一無二の世界観に触れてみてほしいと思います。
★この記事で紹介した楽曲はこちら。
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