私は、「ダルク」って何ぞや?からのスタートでした。
darc/syrup16g 2016年11月16日
Cassis soda & Honeymoon
Deathparade
I'll be there
Father's Day
Find the answer
Missing
Murder you know
Rookie Yankee
公式サイトをふと何気なく眺めていた時に、当アルバムの発売を知りました。で、発売を知っていながらもその発売日辺りは人生の中でも有数のお金がないタイミングに当たってしまい、泣く泣く発売日前フラゲをスルー。もっともっとお金を稼がねば…という思いを新たにしたのは記憶に新しいところ。
そんな私の身の上話は置いといて、先日ようやく無事に初回盤をゲットして特典のステッカーもゲットしたわけですが…この待ち焦がれた一枚についてお話しできることをうれしく思います。ちなみに、アルバムタイトルの「darc」ってなんだろう?ってことで検索にほり込んで私にできる範囲で調べてみたところ…
ダルク(DARC)とは、ドラッグ(DRUG=薬物)のD、アディクション(ADDICTION=嗜癖、病的依存)のA、リハビリテーション(Rihabilitation=回復)のR、センター(CENTER=施設、建物)のCを組み合わせた造語で、覚醒剤、有機溶剤(シンナー等)、市販薬、その他の薬物から解放されるためのプログラムを持つ民間の薬物依存症リハビリ施設です。
(全国ダルク/ダルクとは より)
syrupの楽曲テーマと照らし合わせても、しっくりくるな、と思います。(注:私が調べた結果たどり着いただけ、ですので、もし正確なアルバムタイトルのソースをご存知の方がいましたら教えてください。)期待を持ちつつ、うちに持ち帰って再生ボタンを押してまずは1回目のリスニング…
正直に申し上げて、1回目の試聴成績は決して良好なものではなかったです。単純な話、非常にマニアックなデキだな、と思ったんですよね。今作は今までのsyrup16の作品群の中でもメロディがとにかく異彩を放っていて、真っ直ぐ聞きづらいものがありました。コードの中をメロディが何回も何回もコードという型を破壊してやろうとでも言わんばかりにぶつかるので、ストレートに不快感を感じることもありました。
ただ、私にとってsyrup16gは「命の根幹」にある存在。(その理由はこちらの記事でお話ししています。)
一度聴いてダメだと思ったぐらいで諦めたり、決めつけたりすることはあってはならんと思ったんですよね。そして通しで聴くこと数回…「こりゃぁ、とんでもない大名盤かもしれんぞ…!」そんな風に思い直したんです。今ではもう聴きたくてしょうがなくなるほどです。
そこで今回は「全曲レビュー」をさせていただきたいと思います。全部話したいほど、素晴らしいアルバムですのでね。
■メメントモらず、静粛に、誠実に生きる。(Cassis soda & Honeymoon)
まずは不気味で原始的なリズムの幕開け。ぶっちゃけ、この時点で違和感を感じる人も多いかもしれないですね。それぐらいに、今までのsyrupにはなかったアプローチ。似てる曲が思いつかないんですよね。低く響くコーラスワークも不気味で、文字通り「不安」が煽られる部分が大きいです。
歌詞に目を通して、一番目につくのは「メメントモらず」という造語。ちなみにメメント・モリとはラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句。ただ、この本来の意味ではなく「食べ、飲め、そして陽気になろう。我々は明日死ぬから」という、いささか刹那的な意味の方が大きくクローズアップされて伝わったみたいですね。それはさておき、五十嵐氏が伝えているのは後者の意味の否定だと私は思いました。その後に続くフレーズが「静粛に 誠実に」ですしね。
その誠実さは「どうにかなるをどうかする それしかない この頃は」という身も蓋もないフレーズに凝縮されているなと思います。生産性が薄くとも、それでもやっていくしかない、という現実を教えてくれるのがこのオープニングナンバーだと思います。
■「死んだように生きる屍」が溢れる風景はまさに「デスパレード」。(Deathparade)
続いて2曲目は爆走するようなギターのフレーズが高揚感を生み出しているナンバーです。こちらも、メロディはまっすぐな美しさではなく、不快なぶつかり方が見受けられます。ただ、歌詞の内容を考えたら「気持ちいいわけがない」から、当然の表現ではあるんですよね。
Somebody kills me
’存在しないで’
10階の窓から
樹海の中へSo many death
沿う 運命にです
Deathparade(Deathparade/syrup16g)
存在否定されることの痛み、情景が「見えるほどに」暴力的な描写で描かれています。その運命に沿いながら「死んだように生きる屍」が溢れる風景はまさに「デスパレード」。こんな不気味な風景を描いているのだから、そりゃー、メロディに不快感を覚えても当然。というか、このメロディでなきゃダメだ。それぐらいの切迫感を覚えます。
こういう暴力にさいなまれることの無い「安住の地」ではないどこかで、身をひそめながら生きてるって状況、やっぱあると思うんですよね。うっかりターゲッティングされて、存在を否定されて樹海へと突き落とされないようにね。やはり、五十嵐氏の描写スキルは高い。そして実直。そんなことを再確認させられる一曲です。
■生き急いでいるような景色は、美しいものだった。(I'll be there)
続いて、3曲目はひんやりとした礼拝堂の中にいるかのような美しいリバーブで幕を開けます。おそらく、もっとも「聴きやすい」のはこの曲。メロディもまっすぐ美しい楽曲で、もしかしたら一回目聴いたときにはここで一旦「ホッとする」んじゃないかと思います。ひと回し目の静かなアンサンブルが終わった直後の解放感がとんでもないです。
しかし、キタダマキ氏のベースはホント素晴らしいですね。表現できる幅が本当に広く、ハイトーンを出した時のギリギリ残るような刹那さと、地を這うような美しいベースラインはどうしようもなく心を掴まれますね。
で、この曲で繰り返されるフレーズは以下のようなもの。
生き急いでいるような景色を
選んでみせたかったけど
君が側にいないのを
誤魔化して来ただけなんだよ(I'll be there/syrup16g)
この「生き急ぐ」ってフレーズを聴いて思い出したのは、かつてのsyrupの活動ペース。
デビューから1年間は、フルアルバムを3枚出すという、まさに生き急ぐようなペースで作品を出していたんですけど、それはもしかしたら、誰かに「見てほしい」ものだったのかな…?とふと思いましたね。あの生き急いでいるような景色は、美しいものだったと私は思います。その「生きた軌跡」が私のいまに、確実に爪跡を残してくれたと思います。
■「で」の間に、どれだけの情報量が流れているんだろう。(Father's Day)
そして再び不気味ながらも美しいアルペジオが印象的なナンバーへと流れていきます。大胆にも「で」一文字で長尺のメロディがたっぷり使われています。含みがありますよね。この「で」の間に、どれだけの情報量が流れているんだろう、って思います。
そして、この曲で一番気に入っているのが、実は中畑大樹氏のドラム。明らかに昔より強弱のレンジが広がって、特にシンバルが気持ちよく鳴っているなーと思います。一番最後のサビ前間奏で最高のパワー(なおかつ柔らかさも併せ持っている)でバーンと開くところがめちゃくちゃ気持ちいいです。そして一番最後の五十嵐氏のフィードバックノイズで「昇っていく」ところに最高のクライマックスが待っています。
歌詞はやはり…死のニオイがしますね。「一度きりの Farther's day」って歌われてますしね。「歩くスピードもう決して等しくならないと悟った」ところに、五十嵐氏の覚悟が伺えますよね。
■吐きそうになりながらも、現実という海原に漕ぎ出していく。(Find the answer)
こちらは航海へと飛び出せそうな、開かれた明るい「太陽」も降り注ぐようなナンバー。珍しいぐらいに「明るい」印象も抱く楽曲です。もちろんそれ一辺倒ではなく、中盤のCメロでは船が大きく揺れるような不安定なコードワークとメロディが襲い掛かってきます。この順風満帆にいかないところがリアリティが高いですよね。
しかし、この曲も「決意表明」というか、やるしかない、ってところが見受けられますよね。
許されない手段で
救われようとした捨て去れない想いを
引きずり廻してた耐えきれない心を
抱えたまま来てしまった引き返せないところまで
幻想を纏ってしまった太陽の船
いずれ 海原へ
Find the answer吐きそうだ 御免
In the end 泡沫へ
Find the answer(Find the answer/syrup16g)
自分自身が抱えてきた、ウダウダした何もかも抱えて、吐きそうになりながらも現実という海原に漕ぎ出していく、っていう、迷いがありつつも「前を向こう」という意思が感じられますね。この曲に背中を押される人も多いんじゃないかと思います。
■過去に過ぎない「醜い自分の亡骸」は要らない。(Missing)
コードワークは、おそらくこの曲が一番まっすぐなのかなと思います。基本のメジャー、マイナー調が中心になっています(もはや代名詞に近いカポタストはついてますが)。もっとも、曲が始まった瞬間に、いきなりざっくりと言葉でズバンと斬られますが…
それじゃまるでお前を苦手な人が
いないみたいじゃない
いい気なもんだ(Missing/syrup16g)
多分これ、嫌われたくないって気持ちが過剰な人に向けたものなのかもしれないですね。自分には苦手な人がいるのに、相手には苦手だと思われたくない、といった形の身勝手さをバサッと切り落としてくれてます。美しさの上に乗っかる痛快さがたまらないですね。
さらに、Cメロの一番目立つメロディの上には、絶望の先にある希望が見えてきます。
ただの大丈夫な人でいいじゃない
そうでしょう
コンディション最悪のときもそばに
居てくれる
ただの最悪な人でいいじゃない
自分が「最悪な人」になっているときでも、誰かがそばに居てくれる、ってことはあるわけで。だから、最悪な人であることを認めてしまえば、大いに楽になるし、生きていく希望も湧いてくると思うんですよね。
だから、もう過去に過ぎない「醜い自分の亡骸」は要らないんですよね。泣きながらでもいいから、捨てに行こう。その先に、新しい自分が待っているんじゃないかと思います。
亡骸を 泣きながら捨てに行く
(Missing/syrup16g)
■理想通りではないという「リアル」。(Murder you know)
イントロ部分からのドラムの幕開けがドラマチックなナンバーです。こちらも五十嵐節が冒頭からギリギリのメロディで迫ってきます。サビの歌詞がとにかく素晴らしい!
観たいシーン集めた映画のような
物語なき毎日を続けてゆくなんて困難だ(Murder you know/syrup16g)
そりゃー、いいことばかりあれば「ラク」なんでしょうけど、そんな人生には「物語」はないですよね。要はつまんないよね、って話でね。もしかしたら、五十嵐氏にとっては「理想」がそこにあったのかも知れないですが…
で、もがきながらも新しい道へと踏み出した先に、おそらく「おっ」と思うようなことがあったんでしょうか。「気づき」が以下のように記されています。
新しい出会いや出来事が
もたらせるのは混沌と後遺症だけ
そう思っていた
この文面だけ見ると一瞬暗いですけど、過去形になっているから思ったよりも「新しい出会いや出来事」がポジティブなことをもたらしたのかな、と思います。いわば「一段、進歩をして」から、過去のことをこのように述懐しています。
未開封のままで封じ込めた
可愛げの無い本能と
言い訳を飼いならして来た
結局のところ、ウダウダ言っては本能のご機嫌を取って、やらないための言い訳を繰り返してきたわけですよね。その結果が「まだ 言うの」というリフレインとして跳ね返ってきたということかと。
もっとも、新しいチャレンジは、思ったよりは良かったんでしょうけど、どうにも納得しきれないのか、五十嵐氏はこんな言葉でこの曲を締めくくります。
これじゃない これじゃない感
理想通りではないけれど、それこそが生きる上でのリアルかなと思います。
■後ろを向いているように見えて、実際は全力で前を向いている。(Rookie Yankee)
さて、いよいよ最後の一曲ですが…
こちらの楽曲は一番最後に、しかもアルバム制作途上で出来上がったものらしいです。
最後に収録されている「Rookie Yankee」は全ての収録曲が決まって、 既にレコーディングが進んでいる途中で新たに生み出された曲です。
突然増えた収録曲に対応するため、スケジュールをやりくりして、滑り込みでなんとか収録できた曲ですが、 この曲がこのアルバムの全てを言い表しているような気がします。
そんなこともあってか、ザラザラしたテイストのアコギに歪んだベースが絡んだ生々しいサウンドになっています。言葉も今までの楽曲よりもはるかにトゲがありますね。
偉い人の言うことは ひとつ
’使われるな 馬鹿を騙せ'(Rookie Yankee/syrup16g)
もう、身も蓋もないといいますか…ここだけフォーク調に近い詰め込み式のフレーズなんで、より強く聞こえますよね。で、最終的、究極的に「死」へと言及が進んでいきます。
死ぬのだ
死ぬまで 全部絞って人の気持ちも 固有の気持ちも
絞り切って 全部で死のう
一見、穏やかじゃないように聞こえますけど、これをもし実行しようと思ったら、全力で生きないとできないんですよね。だから、後ろを向いているように見えて、実際は全力で前を向いている。そんな前向きさが出ていると思うんですよね。これぞ、syrup16gの神髄とも言える一曲だと思います。
■一聴目で諦めずに、2度、3度と聴いてほしい作品。
さて、全曲レビューしてきましたが…改めて、syrup16gの素晴らしさが身に沁みますよね。言葉尻だけを捉えるとものすごく暗く見えるんだけど、そこに向き合おうと思えば、全力で生きなければ成し得ないことが認められているんですよね。何度こういう言葉に勇気づけられてきたことか…
一聴目は違和感があると思います。ですが、諦めずに2度、3度と聴いてみてほしいと思います。そのころには、もはやクセになって、何度もリピート再生をしてしまう作品だと思います。
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