いちいち、音楽を考える。

音楽はフィーリングも大事だけど、いちいち考えてみたくなるんです。

「鬱屈を一掃するくらいの」、眩くも穏やかなエネルギー。(日出処/椎名林檎)

 まばゆくも、おだやかな、陽。

 

日出処/椎名林檎 2014年11月5日

静かなる逆襲
自由へ道連れ
走れゎナンバー
赤道を越えたら
JL005便で
ちちんぷいぷい

いろはにほへと
ありきたりな女
カーネーション
孤独のあかつき(信猫版)
NIPPON
ありあまる富

実は、このアルバムを聴くまでは、椎名林檎氏のアルバムを「がっつり」聴きこむってことってやったことなかったんですよ。なんというか、流行に対する反駁というか、軽音やってたときに腐るほどみんながみんな、猫も杓子もコピーしよるんで、食傷気味になっていたって影響もありました。さらに言い換えると、自分から積極的に近づいていないのに、向こうから迫って来るかのような感じがあった。そういう感じです。

ただ、それでも「カッコいい」とは思っていたんですよね。東京事変も好きでしたしね。ちょこちょこ耳コピしたりして、カッケーなーとか思ったり、それこそギターを触りながら雑談するときの話の肴に、コピーしていたリフをサラッと弾いてみたりしてコミュニケーションの手段に…みたいなこともあったかと思います。

それはさておき、なんでこのアルバムになって「がっつり」聴きこみだしたかというと…とにかく、このアルバムに収録されているシングル曲がどの曲も凄まじいクオリティだったからなんです。本人も「楽曲が明るいということを活かして、鬱屈とした時代を一掃するくらい眩しいものになればいいな、という想い」があるようで、まさにそれにふさわしい内容になっています。

ただ、このアルバムでもっとも素晴らしいと思ったのは、アルバムの楽曲構成。7曲目の「今」を中心軸として、前半は「裏と表、対比の連続」というストーリーを中心にしてで楽曲が進んでいって、後半はその「対比物の統合」の結果、裏も表も通ってきた結果としての「眩いばかりのエネルギー」が溢れているんですよね。だからこそ、凄みが楽曲の根底に据わっていると思うんです。

さて、前置きが長くなりました。それでは、このアルバムの「鬱屈を一掃するくらいの」まばゆいエネルギー、触れてみていただけたらと思います。

■わたしも、あなたも、ありなんだ、という自由。

 

もう、爆走してますよね。ドラマ「ATARU」の主題歌だったので、聴いたことがある方も多いかと思います。

ゴリゴリしたサウンドで、まさに「道連れ」にするかのようにリスナーの意識をさらっていく楽曲です。演奏陣も超が付くほど豪華で、ギターはPOLYSICSのハヤシ氏、ベースにGOING UNDER GROUNDの石原聡氏、ドラムはDragon Ashの桜井誠氏と、もはや鉄壁の布陣ですよね。

この時点でもはや、何も考えずとも身をゆだねて道連れにされてしまってもいいと思うんですけど、アルバム前半のカギとなるフレーズがズバッと最後に切れ味鋭く、ブレイクと共にやって来るんですよね。

生きている証は執着そのものだろうけど
放たれたい
相反する二つを結べ
自由はここさ
本当の世界のまん中

(自由へ道連れ/椎名林檎)

相反する属性のモノって、どうしても「相容れない」ってところがありますが…その属性を統合できた時に、わたしも、あなたも、ありなんだ、という自由が生まれるわけですよね。

この自由を享受できるようになると、気持ちいいですよね。「お互いアリ」という前提で話が進むから、お互いを自由なモノとして扱い合える、解放されたコミュニケーションに繋がっていくんですよね。

もちろん、これを実現することは並大抵のことではないけれど(相反するところからの歩み寄りって、そない簡単ではないですし)、少なくとも自由は「このポイント」だ!ってことをドライビングするエネルギーで「道連れにしてでも」伝えてくれているのがこの楽曲の魅力だと思います。

自由へ道連れ

自由へ道連れ

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■「相反する物」が、まん中で「統合」されるときは「今」。

 

このアルバムのまさに「ど真ん中」に「軸」のようにドカッとプレイスメントされているのが「今」。「今」が「ど真ん中」っていうのは多分に示唆的なメッセージだなと思います。

で、示唆的だと思ったのは、この楽曲で前半の「対比」の象徴として「過去」と「未来」との出会いと統合を、男女になぞらえてセクシャルに描かれているんですよ。

※この歌詞は全部重要なので、こちらのサイトを参照してみてください。

今 - 椎名林檎 - 歌詞 : 歌ネット

この楽曲自体は、あくまで静かに、ムーディーに絡みあうようにじんわり、ねっとり、ゆーっくりとジャジーに繋がっていくものになっているんですけど、この楽曲を通過したのちに、それこそ「悟った」かのように、アルバムを彩るエネルギーの質が「神々しい」モノになっていきます。その統合する瞬間を楽しんでみてほしいな、と思います。うつくしい、夜明けのような感覚が味わえると思います。

今

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■「陰極まりて、陽と為す」、花ひらく瞬間。

 

ご存知、NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」の主題歌となった楽曲です。…実はこの楽曲の「本質」部分を際立たせるのがもっとも重要な作業だった、とご本人が語っていました。先ほど取り上げた「今」とも繋がる楽曲ですが、こちらの方が「光」というか「花がひらく」というイメージですね。

では、その「本質」っていったいどこにあるんだろう?ってなことを私なりに感じてみたんですが…いわば「陰極まりて、陽と為す」って形なのかと思いました。歌詞は非常に短いんですが…

※こちらも歌詞全文が重要なので、こちらをご覧ください。

カーネーション - 椎名林檎 - 歌詞 : 歌ネット

訥々と、ギリギリ「残るか、消えるか」ぐらいのエネルギーから、花が開く瞬間の生命力あふれるシーンを彷彿とさせるほど「立った」歌声へと広がりを見せていくさまは静かだけど、荘厳なモノを感じます。

カーネーション

カーネーション

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■ナニモノをも寄せ付けないほどに、ただひたすらに「昇る」。

 

圧倒的なクライマックス感。昇竜のように上り詰めていく様が浮かぶほどに神々しく、気高いエネルギーをまとった楽曲。

※実はこの曲、歌詞のメッセージがいわゆる「軍国主義」的なフィーリングを醸しているとして批判を受けた楽曲。ただ、サッカーっていう言わば「戦い」の場に向けての楽曲なのに、いわば「揚げ足取り」的に右翼的だなんだというのは、実に下らない批判だと思う。曲を聴け曲を。

なんというか、ナニモノをも寄せ付けないほどに、ただひたすらに昇るのみ、ってぐらいに、まっすぐ伸びていくんですよね。全員が(←ここが珍しい。ボーカルだけが立ち上がるとかギターがイッテしまうとか、そういう単一のものはあれど、全体ってのがすごい)。

椎名林檎氏本人が「気負って書いた」というだけのこともあり、漲り方が、ね。もしかしたら先述の批判も、そういうとてつもなく伸びるエネルギーに怖れをなして、いちゃもんつけるような形で出てしまったのかもしれないですね。

それぐらいに、気が昂っていく。そんな楽曲だと思います。

NIPPON

NIPPON

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■「奪われようと、ある」。

 

このアルバムの最後を飾る、「突き抜けた後の」、穏やかな悟りの境地が開かれているような、凄みを通過した後の…まさに「過不足」が一切ない楽曲。このアルバムに入っている楽曲の中でもっとも「ナチュラル」な存在だと思います。

なにがナチュラルかっていうと、アレンジも凝り過ぎていないし、温度がとんでもなく昂るわけでもなく、淡々としたアコースティックギターのコードワークをメインに、いわゆる「削ぎ落とされた」時間が過ぎていきます。

この「デトックス」感が非常に気持ちよくてね。それこそ、自分の周りにまとっている「要らないもの」を、ぜーんぶ洗い流してくれるような感覚があります。

もしも彼らが君の何かを盗んだとして
それはくだらないものだよ
返して貰うまでもない筈
何故なら価値は生命に従って付いている

(ありあまる富/椎名林檎)

自分自身が「奪われた」って思う感覚って、誰しもあると思うんですよ。でも、それはある意味「そのとき」だけで、後々振り返ってみると「ご縁がなかったんだな」とか、また新たな違うモノが繋がってきたりとかして、結局のところ「奪われようと、ある」んですよね。

「生きている証は、執着そのもの」なのかもしれないけれど…実際は「命」にだけ執着していれば、それでも十分、気持ちよく、清々しく生きていけるんじゃないか。

この曲を聴くと、そんな気持ちがじんわり、あたたかく広がっていきますね。

ありあまる富

ありあまる富

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■最後、「穏やか」に戻ってくるところが気持ちいい作品。

このアルバムの一番の気持ちよさは、まばゆい光のまま終わるんじゃなくて、最後は日常を彩るような「穏やかな陽」という形で終わってくれるところかなと思います。落ち着いた気持ちで、また日常をやっていけるように送り出してくれるような、そういう「背中をスッと押してくれる」やさしさを感じることができるアルバムです。

その「やさしさ」も、表面をなぞっただけの薄っぺらいモノではなく、闇と光が統合されたあたたかみあるものですから、ぜひ一度、委ねてみてほしいと思います。

 

★この記事で紹介した楽曲はこちら。

<アルバム>

Hiizurutokoro

Hiizurutokoro

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥2100

<楽曲>

今

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
NIPPON

NIPPON

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
自由へ道連れ

自由へ道連れ

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
ありあまる富

ありあまる富

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
カーネーション

カーネーション

  • 椎名林檎
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes