いちいち、音楽を考える。

音楽はフィーリングも大事だけど、いちいち考えてみたくなるんです。

「虚像」をはぎ取った、「健康的」なカッコよさ。(SICKS/THE YELLOW MONKEY)

「虚像」をはぎ取った、健康的な「本来」のカッコよさ。

 

SICKS/THE YELLOW MONKEY 1997年1月22日

RAINBOW MAN
I CAN BE SHIT,MAMA
楽園
TVのシンガー
紫の空
薬局へ行こうよ
天国旅行
創生児
HOTEL宇宙船
花吹雪
淡い心だって言ってたよ
見てないようで見てる
人生の終わり (FOR GRANDMOTHER)

先日、吉井和哉ソロの1枚について記事にしたんですが…

musictherapy.hateblo.jp

実は私、イエモンに関してはリアルタイムでの興味が薄かったんですよね。むしろ、興味を持ち始めたのは「ソロ」になった直後ぐらいのときで。それもそのはず、イエモン全盛期は私のロック覚醒前。だから「J-POP」の一部って位置づけだったんですよね。

大学に入ってからコピバンを組む機会(2007年初頭)もあったけれど、自分のスキル不足もあって練習に必死でフィーリングを感じられる状態になく、はまりはしなかったんですよね。この当時、とうにイエモンは解散していましたし、ホント馴染みは薄かったです。

そんなこんなで、ろくすっぽ聞き込むこともないまま、時は流れに流れて2014年。

きっかけは全然覚えていないんですが、現在の嫁さんの紹介で「SICKS」に出会ったんです。嫁さんはホント、吉井和哉氏が大好きでね。それこそ一番影響を受けたバンド、ぐらいの勢い。なんせ、イギリス旅行中に偶然、吉井氏を見かけるっていうミラクルも起こしてますしね(笑)

その嫁さんが、一番好きなアルバムはこれ、と言うんですよね。ちなみに、そのとき私が一番好きだったアルバムは、聴きこみ…までは至ってなかったですが「PUNCH DRUNKARD」。若干の意見対立がありながらも、とにかく聴こうと思って嫁さんに借りたんです。…早い段階で、白旗、でしたね。やっぱりホンマに好きな人の意見はひと味ちゃうなと思いましたわ。

…参った、って思ったのは、この楽曲の「旅」が終わったときでした…

■「長い」けど、「短い」旅行。

 

一分のスキもない、と言いますかね。

緩急をつけても「すっぽ抜けたり」せずに、みなぎってるなーと思います。めちゃくちゃ長い(8分30秒ぐらい)曲なのに、短く感じるし、浮かぶ情景は「ゆっくり」しているのに、見える風景はドライブするかのように、速い。吉井氏本人が「JAM」と並べて気に入っている、ってのも納得。

汚れるだけ汚れるのもいい
笑いながら死ぬ事なんて僕にはできないから

(天国旅行/THE YELLOW MONKEY)

冒頭では、「汚れた心とこの世にさよなら」するつもりで天国に逝こうとしていたわけですが、その汚れという現実を不器用ながらも受け止めようとする姿が「一周回って美しい」と思うんですよね。

もう一度言いますが、この曲は「長いけど短い」です。その不思議な感覚をぜひ、体験してみてほしいなと思います。

天国旅行  (Remastered)

天国旅行 (Remastered)

  • THE YELLOW MONKEY
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■こんなに愚直に、自分たちを皮肉れないですよね。

 

でっかい車 ちっちゃな肝っ玉
薬は選びな

(中略)

素直なコメントね 素朴な人だね
プラマイゼロだね お見事さ

TVのシンガーこれが現実
君の夢などこっぱみじんさ
淋しいだろ? そりゃそうさ…

(TVのシンガー/THE YELLOW MONKEY)

なかなか、ここまで愚直に自分たちを皮肉ることって出来ないですよね、傷つくし。以前は「ロックスターになれば羽が生えてくる」と思っていた憧れとのギャップも相まって、えぐれ度合いがかなり深いですよね。

この絶望的な気持ちが、エマの「重く、鋭い」ギターリフ、アニーの「ボディーブロー」のように下から効いてくるタムワーク、全体を繋ぐように地を這うヒーセのベースライン…かなりのエネルギーを割いた跡が、生々しく見える楽曲だと思います。

自分自身のロックスターに対する憧憬を捨てて、はたまたそういう世間やそれこそ「ロック少年」が憧れとして描く「ハリボテ」めいたものを剥ぎ取って、しかもそのことが自分たちにブーメランのようにガツーンと返ってくるにも関わらず、それを分かっていて描いたってところが、正直でカッコいいなと思います。

TVのシンガー  (Remastered)

TVのシンガー (Remastered)

  • THE YELLOW MONKEY
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

■虚像をはぎ取った、健康的な作品。

このアルバムは、SICK(病気)ともかかっているんですけど、そんな病的なものは意外と感じないんですよね。

むしろ、原点であるグラムロックのサウンドをもう一度見直して、「売れるために捨てた」要素を取り戻したってことに加え、自分たちの「虚像らしき」カッコつけを剝がしているって意味でも、かなり健康的な作品ともいえると思います。こういう経緯ゆえに「売れ線」に寄せてはいなかった(シングルは「楽園」のみ)のにも関わらず、イエモンのオリジナルアルバムでは最も売れたのがこの作品。この事実もカッコイイ。

75分というハイパーなボリュームのある作品ですが、その時間を割く価値が十分にある作品だと思います。

 

★この記事で紹介した楽曲はこちら。

<アルバム>

SICKS  (Remastered)

SICKS (Remastered)

  • THE YELLOW MONKEY
  • ロック
  • ¥2000

<楽曲>

天国旅行  (Remastered)

天国旅行 (Remastered)

  • THE YELLOW MONKEY
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

TVのシンガー  (Remastered)

TVのシンガー (Remastered)

  • THE YELLOW MONKEY
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes